【会員さまインタビューvol.1】建てるだけで終わらせない。吉野で始まる、奥村組の新しい「学び」と「再生」の物語
閉校した小学校が、また誰かの居場所になるまで
―― 奥村組が挑む、「旧吉野小学校 学校跡地利活用事業」
旅と学びの協議会には、業種も規模も異なる企業が多数参画しています。今回お話を伺ったのは、本年度より参画された株式会社奥村組の黒瀬さん、岡田さん、須山さんの3名。
建物を形にして、引き渡す。建設業にとって、それが仕事のひとつの区切りです。奥村組は、なぜ閉校した小学校を拠点に、自社の研修施設をつくることになったのか。そして、その歩みの中で、旅と学びの協議会にどのような経緯で参画することになったのか。
奈良県吉野町は、かつて賑わった林業の町。奈良県で創業した奥村組にとってもゆかりの深い土地であり、旧吉野小学校の校舎は約60年前に同社が施工した建物です。その閉校した小学校を舞台に動き始めた、大きな挑戦について伺いました。

《インタビューに参加してくださった皆さま》(※敬称略)
(左) 株式会社奥村組 事業創生本部 事業開発2部長 黒瀬 英俊
(中央)株式会社奥村組 事業創生本部 事業開発2部 事業共創課長 岡田 健
(右) 株式会社奥村組 事業創生本部 事業開発2部 事業共創課 須山 和香
きっかけは、偶然という名の必然
―― 今回のプロジェクトに、奥村組として取り組もうと思われた背景から教えていただけますか。
須山:このプロジェクトを始めるきっかけを作ったのは、黒瀬部長です。
黒瀬:社員のための研修所がないという弊社の切実なニーズがあり、新事業開発部でさまざまなアプローチを検討している中で、旧吉野小学校を見つけたというのが大きなきっかけです。本当に偶然なのですが、文部科学省のとあるイベントに出ていて、吉野小学校が閉校すると聞いたんです。何気なく自社で検索し、どこが施工したのか調べたら、たまたま約60年前に弊社が手掛けていたことがわかりました。
―― 小学校を、ですか。それはすごい偶然ですね。
黒瀬:そうなんです。建物を作ってお渡ししたら、そこでひとまず仕事は完了する。極端に言えば、それが我々の仕事ですが、今回は逆に、スクラップになっていく閉校した小学校を、レガシーとして使えないかと考えました。新規事業を検討する立場にいたので、会社に提案してみようと思ったのがきっかけです。
弊社の新入社員研修は、長らく本社で研修を行い、宿泊にはビジネスホテルを利用していました。自社の研修所を持つことは経営層から長年の課題として挙がっており、研修所になるような場所を探していたんです。そこに提案した、という形ですね。

理想と現実のあいだで
―― それが現実になっていくわけですね。理想と現実というところで、大変だったことや、良かったなと思うエピソードはありますか。
須山:今はオープン前で、もう少しで半年を切ろうとしているタイミングです。自社の研修施設として使うというのが大きな軸としてあるので、社内の各部署の利害関係を調整しながら、理想のかたちを求めることに難しさを感じます。
そうした調整の難しさがある一方で、吉野町から寄せられる期待の大きさを日々感じています。5、6個あった小学校が統合されて1つの小中一貫校になっている中で、本来の役目を終えてしまった吉野小学校に、飲食店や温浴施設など新しい息を吹き込む。そのことへの期待をすごくいただいています。それが自分のモチベーションになりますし、このプロジェクトのいいところだなと思います。
―― 吉野に住んでいらっしゃる皆さんと、直接触れ合う機会というのは意識的につくられていますか。
須山:住民の方を集めての意見交換は、今まで3回しています。さまざまな意見を頂戴しますが、それを実際の施設づくりや運営に反映するフェーズへ移すことには、難しい面もあると感じています。
一方で、東京を拠点に吉野へ足を運ぶ立場だからこそ、地域の皆さまからいただくご意見には多くの気づきがあります。地域の特徴や実情を的確に捉えたお話ばかりで、そのたびに新たな学びや発見につながっています。
―― 「よそ者が来た」と捉えられる方もいらっしゃるでしょうし、町が潤えばいいというだけでもありませんよね。当然、行政や住民のなかでもいろんな利害関係があると思います。その中で、対話を進めるうえで気をつけていることはありますか。
須山:吉野町は人口6000人弱で、高齢化率も半数を超えています。地域の方々とお話しするなかで多くの学びをいただく一方、意見交換の場には参加しやすい方と参加しにくい方がいることも感じていました。
特に仕事や子育てに忙しい30代から40代の方々の声は、地域の将来を考えるうえで欠かせません。そうした方々の意見をどのように拾い上げ、施設づくりや運営に反映していくかを大切に考えていました。
そこで、住民の意見収集プラットフォームを提供しているスタートアップ企業の協力を得ながら、私たちからテーマを投げかけ、地域の皆さまの率直な声を集めています。
この仕組みは、本来は自治体が政策立案を行う際に活用されるものですが、今回は民間事業である私たちのプロジェクトにも取り入れてみました。
プロジェクトが完成してから地域の方々と関わるのではなく、構想や計画の段階から対話を重ね、小さな声であっても大切な意見として受け止めながら事業づくりを進めることを意識しています。
―― このプロジェクト自体は、どれくらいの方が関わっていらっしゃるのでしょうか。
岡田:私たちと、もう1人メンバーがいるので、4人ですね。
黒瀬:3人ですよ。僕は何もしてないので。サポートとして(笑)。
岡田:体育館やグラウンドではドクターヘリが着陸できる環境を常に維持していて、土日には地元の少年野球やサッカーができる環境も用意しています。
―― 町に開かれた設計というか、住民の方々と自然に共存できるようになっているんですね。
岡田:これまであったものは阻害せず、さらに町自体が活性化したら良いなという想いで、宿泊施設や飲食店、温浴施設といった新しい機能を作っています。
―― そういう設計は、奥村組さんの方で話し合って作られたんですか。
岡田:事業予定者として参画するにあたって、公募プロポーザルでご提案しました。
黒瀬:単純な収益事業だったらやっていなかったですね。自社の研修施設という主軸があったから、今の提案に至れました。
通過点だった町を、拠点に変える
―― 自社の研修施設と観光目的、利益を出さなければいけない部分の兼ね合いを踏まえ、今後の展望について教えてください。
須山:私の中で大きく2つ目標があります。1つは、新入社員にとって、社会人としての第一歩を後押しする、成長のきっかけとなる場所にすること。研修施設を吉野町に作ることで、どんな化学反応が起こるのか期待しています。
私自身が新入社員時に受けた研修は大阪本社の阿倍野・天王寺で行われ、講義形式の内容が中心でした。もちろんそれも大切な学びですが、地域の現場を訪れ、人々の暮らしに触れる機会は限られていました。
今回、吉野に研修場所を移すことで、新入社員の皆さんにはまず吉野町を知ってほしいと思っています。教室を飛び出し、地域が抱える課題や魅力を実際に見て、聞いて、感じることで、これまでにない気づきや学びを得る機会になるのではないでしょうか。
もう一つは、吉野をより多くの方に知っていただきたいという思いです。吉野は桜の名所として有名ですが、多くの方にとっては周辺地域へ向かう途中の通過点にもなっています。そこで団体でも宿泊できる施設を整備し、吉野に滞在しながら地域の魅力を深く知っていただける拠点を目指しています。
吉野には林業や歴史、文化など学びの資源が豊富にあります。旅と学びの協議会に参画した理由にも繋がりますが、製材所や金峯山寺をはじめとした地域ならではのコンテンツと連携しながら、人が集い、学び、地域とつながる拠点になればと考えています。

―― 素晴らしいですね。吉野には素晴らしいコンテンツがたくさんあるのに、まだ日の目を浴びていない印象があります。インバウンドの需要もありそうですね。
岡田:最近はインバウンドの方々にも認知が広がりつつあり、少しずつ注目され始めていると感じます。
―― 一般の旅行者だけでなく、企業の研修などで活用される可能性もありそうですね。今後、社外にはどのように開いていきたいと考えていますか。
岡田:企業は今、離職率などの課題を抱えています。その解決の一つとして、我々も研修施設を所有し、運営していくところです。それがうまくいけば、我々が研修をしていない時期には、他の企業の皆さまにも研修所としてご利用いただきたいですし、できれば、我々が用意する学びのコンテンツも合わせて活用いただければと思っています。
――人が集える場があるというのは強いですよね。
岡田:来年4月にオープン予定で、そこから新入社員の研修を終えたら、以降は一般の宿泊者の方にもご利用いただけます。だいたい8月くらいですかね。旅と学びの協議会でも、サミットをやりたいと思っています。
開くという設計
―― オープンに向けて、どのようなプロセスを経て、当日をどんな形で迎えたいとお考えですか。
岡田:3月に開所式を町役場や関係企業の方々と行う予定です。また、地域住民の皆さまにもお披露目会へお招きし、皆でお祝いしながらスタートを切りたいというのが目標です。
須山:PRの進め方についても、施設プロデュース経験の豊富なコンサルタントに伴走いただいています。施設の認知向上だけではなく、吉野町という地域全体の魅力を伝える視点で、社内外への発信に取り組んでいきたいと考えています。

―― このような新規事業を社内で通すのは、なかなか難しいと思うのですが、実現に向けて進んでこられた理由は何だと思われますか。
黒瀬:気合と根性ですね(笑)。あくまで、自社内になかった研修機能を、新規事業を検討するセクションが提案したという形なので、研修で使用しない期間は新事業の実験場として活用させてほしい、と。
岡田:そもそも建設会社が宿泊施設をやるのが初めてです。温浴施設、ホテル、飲食、どれもやったことのない分野です。リスクに目が向き、社内でも「本当に大丈夫なのか」という話ばかりでした。
―― 企業のブランディングとしては素晴らしいと思います。地域に開かれた場所にするという意味でも、奥村組さんがこういった事業をされるというのは説得力があるというか…。弊社でも、こういった施設で役員合宿や経営者向けのキックオフができたら面白そうです。
須山:近鉄線の最寄り駅から徒歩15分圏内にあるので、送迎バスを手配する手間も省けますよ。
旅という感覚を、学びに変える
―― 旅と学びの協議会へ参加しようと思ったきっかけは、吉野のプロジェクト以外に何かありますか。
岡田:最初の入り口は、長崎の移住イベントでANAホールディングス(旅と学びの協議会の事務局)の水野さんと齋藤さんと名刺交換をしたことでした。旅という感覚的なところを科学的に分析して、学校の先生たちも参加して論理的に考えるということが、我々も地域を活性化させるコンテンツを作らなければならないという中で、非常に興味が湧きました。

―― 参加されて数ヶ月ですが、どんな期待をお持ちですか。
岡田:まずは、吉野の施設が完成したらサミットやイベントを企画しますので、皆さんに体験いただき、その上で感じたことを率直にお聞きしたいですね。我々もコンテンツを用意するので、率直な感想はもちろん、「こんな展開もできるのではないか」といったアイデアもいただけるとありがたいですね。
―― 本業にも何かつなげられたら素敵だと思いますが、紐づけられそうなアイデアはありますか。
黒瀬:建設現場の見学でも十分「旅と学び」だと思います。コンクリートを打っているところなどを見学していただくなど、普段は見られない白い仮囲いの現場内部って非日常だと思います。そういう場面を見ることで、新たな発見や建設業への理解が進めばいいなと思っています。
―― 珍しいものを作られていたりするのでしょうか。
黒瀬:弊社が施工したもので珍しいものは、通天閣(2代目)があります。また、トンネルでは青函トンネルも手掛けています。現在施工しているもので特殊なのは、リニア中央新幹線の駅でしょうか。
―― これだけAIが進化してきても、やはり人間にしか作れないものがありますよね。
岡田:手触りがあるという感じですよね。協議会での話に戻すと、先日、須山が清瀬サミットに行って色々なところを見させてもらって、見せ方や伝え方など、多くの学びがあったようです。
それぞれの、これから
―― 最後に、お三方それぞれ、今後やりたいことや協議会への期待を一言ずついただけますか。
須山:仲間に入れてもらえてすごく嬉しいです。旅と学びの協議会に参加していなかったら出会えていなかった方ばかりで、世界が広がったなと思います。
先日、清瀬のサミットに参加して、皆さんの知的好奇心が旺盛で、活発さに影響を受けて視界が広がりました。吉野のサミットを開催するのが1つの目標で、皆さんに来てもらって、その後も広がっていくような企画を打ちたいなというのが目標です。
岡田:吉野町を地方創生で雇用などの拠点として構えたという思いがあるので、とにかく広げることをしていきたいです。協議会で気づくことがたくさんあると思っているので、そこに期待しています。
黒瀬:継続が大切だと思っているので、吉野をきっかけに旅と学びの協議会で吉野を取り上げていただいて、一緒に学びをさせていただく中で、次の課題が出てくる。そうやって学びのテーマをどんどん深掘りして、継続的にウォッチしてもらうようなトライアルになればと思っています。建設業では初めての参画なので、そういう意味でも頑張りたいです。
―― 素敵なチームで、面白いお話でした。本日はありがとうございました。
インタビュー・構成・執筆:吉田麻美(THINK AND DIALOGUE)
文責:殿元綾花(ANAホールディングス)、吉田麻美
