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<後編>感動をデザインするように、旅と学びの体験をつくる〜豊田啓道(とよだ ひろみち)さんインタビュー〜

事務局旅と学びの協議会

「旅はゴールではなくプロセス」と語り、ディズニー流の“感動体験”の神髄について明かしてくださった前編。 後編となる今回は、その視点をさらに広げ、豊田さんが現在取り組まれている「地域創生」や「人づくり」の現場に迫ります。

「観光地ではなく、“生きた物語”を見に行く」
「困ることが、人の成⻑を促す」


地域に眠る魅力を映画のように編集するストーリーテリングの手法や、ディズニーで培った知見や経験をどのように社会課題の解決へ応用していくのか。
そして、豊田さんが見据える「旅と学び」の未来とは。

エンターテインメントと地域づくり、その垣根を超えた豊田さんの挑戦の軌跡。後編をお届けします。

人の変容を促すために

 ー 人々の心に刻まれる「体験」のデザインを究めてこられた豊田さんから見て、地域創生の現場で人の価値観が変わり、成長が生まれるのは、どのような時でしょうか。

豊田:鳥取県の江府町で“保育園らしくない保育園”のプロジェクトに関わったとき、4 人の若い職員がメンバーに入っていました。そのとき、「保育園を作るだけじゃない。この若者 4 人も育てよ!」という町⻑のメッセージを明確に感じました。プロジェクトだけでなく、人も育てるという視点です。
価値観の変容には、まず“出会い”があり、その条件のもとで必要となる要素が“信頼、想い、リスペクト”です。リスペクトなしに人は変わらない。あとは「ここで絶対に良いものをつくってやる」という覚悟でしょうか。

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江府町プロジェクト(保育園らしくない保育園)のメンバーと

 ー 価値観が変わる「体験」という点では、何か要素はありますか?

豊田:一番端的なのは、「困ること」があることでしょうね。困って、追い込まれて仕方なくやること。その連続は決してネガティブだけではなくて、困った時こそ成⻑力は上がります。

 ー そこに適切なリーダーがいると、さらに変化が起きやすいですよね。

豊田:その通りです。江府町も保育園が老朽化し、少子高齢化も顕著化し、困っていました。40 年に一度の公共事業を「町の再生プロジェクト」にしたい、という切実さがあった。その状況に自分が、プロジェクトマネージャーとして導かれていったような感覚もあります。

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江府町の町長から感謝状を頂きました
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コミュニティ・パーク イメージ図 保育園と公園の融合

“生きたストーリー”を取り戻すために

 ー 観光と教育が交わることで生まれる可能性について、”旅と学び”の価値をどう捉えていらっしゃいますか。

豊田:昔、メジャーな旅行雑誌を持って旅をしていると、隣の人も同じ本を持っていて、同じ場所を巡っていましたよね。でも本当の旅ってそうじゃない。
コロナもあり「みんなと同じ」ではなく、自分の好きなものにアクセスする旅へと価値観が変わりました。こうしたニーズの分散化は、これまでスポットが当たっていなかった地域にも光が届くようになるのだと思います。その中心にあるのは、地域の魅力の最小単位である、やはり“人”です。

そして魅力の源泉は、地域、環境、建物よりも、“人との出会い”。その出会いの延⻑線上に“学び”がある。有名な観光名所だって、本に書いてある情報を見ても学びにはならないでしょう。本質的な学びは、そこにいる人や暮らしを感じることです。その町の生活感、苦労、幸せ、食文化…そういう「生きた物語」を見たいんです。一般的な観光地を巡ることもよいですが、その土地の人の暮らしが見えることも大事です。

 ー 豊田さんはストーリーづくりを大切にされていますが、旅やまちづくりで重視していることはどんなことでしょうか。

豊田:初めて行く土地では、まずその地域が持つカルチャー、そこに住む人が社会をどう捉えているかを読み取ります。もちろん歴史もその一部です。
そして「ゾーニング(zoning)」、地域の個性化です。地域にはどういう“魅力の種”があるのかということは、実際に行かないと分かりません。
このように情報を入れていくと、映画をつくるように、映像や楽曲が浮かび上がり、「こういう絵面で、こんなテンポで、1 時間半くらいのストーリーになるな」と見えてきます。それをもとに、ストーリー → ゾーニング → 世界観 →時間のデザインという流れで組み立てます。

 ー 旅を軸にした学び、人材育成、地域づくりをテーマに、豊田さんが実現したい未来について教えてください。

豊田:今の仕事を選んだのは、今まで自分がやってきたことが正しいかどうかを証明したいという思いがあったからです。プラットフォームや領域が変わっても再現性があれば、それは本物。他のテーマパークで同じことをやっても意味がありません。でも行政という違う領域で、同じように成功事例をつくれたら、それはどこでも使える共通の価値になります。
年齢的にもそろそろディズニーの中だけで閉じていた知見や経験を、日本社会に役立てたい、貢献したいという気持ちもあり、その 2 つが自分を動かしています。

もちろん、できているかというとまだまだで、伝えられることもやれることも一部。でも、世の中には、どこでも使われているセオリー、考え方を駆使しても出口を見いだせないケースがたくさんある。その中で、僕が持っている全く違う考え方で突破口を開ける人たちがいるはず。そこに貢献したいと思います。

今進めている保育園のプロジェクトは、非常に面白いんです。コンセプトを作り、そのコンセプトに合わせて施設を作り、そこにサービスを載せていく――。これはテーマパークの作り方と全く同じ。建物のデザインからサービスのポリシーまで、ハードからソフトまで一貫して手がけるプロジェクトはやりがいがあり、自分自身のパフォーマンスが最大になることを実感しました。

 ー 協議会の掲げる「旅してまなぶ世界をつくる」というビジョンについて、どうお考えですか。また、ご自身の方法論でどのように貢献できると思われますか。

豊田:正直に言うと、「出口のないことを掲げてしまって、大丈夫かな」という気がします(笑)。ただ、先ほども触れましたが「旅」も「学び」も、どちらも“プロセス”なんですよ。そこにこそ本質的価値がある。プロセスである以上、時代に応じて姿を変え、一人ひとりの中で全く異なる意味を持つ。だからこそ、これは極めて深く、面白いテーマだと言えるでしょう。

協議会には多様な立場の方が集まっていて、目線も持ち帰る目的もそれぞれです。全員が同じ新宿駅のプラットフォームに立っているようで、実は目指す行き先(乗るべき電車)が全く違う。そんな状況ですね。だからこそ私はここで、ディズニーで学んだ「体験のデザイン」という視点を活かし、皆さまと一緒に、この「旅して学ぶ」というテーマを少しでも具体的な形にできたらと思っています。

インタビュー・構成・執筆:吉田 麻美(THINK AND DIALOGUE)
文責:殿元 綾花(ANA ホールディングス)、吉田 麻美

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