<前編>感動をデザインするように、旅と学びの体験をつくる〜豊⽥啓道(とよだ ひろみち)さんインタビュー〜
旅と学びの協議会がお届けする、「旅」や「まなび」の実践者インタビュー。第2弾となる今回は、元 株式会社オリエンタルランド、現在は総務省 地域⼒創造アドバイザーや地域創⽣コンサルタントとして全国各地で活躍されている、豊⽥啓道(とよだ ひろみち)さんにお話を伺いました。
「旅はゴールではなく、プロセスである」
そう語る豊⽥さんの原点は、⻑年ディズニーで向き合い続けた「感動のデザイン」にありました。ディズニーが提供する「ハピネス」の正体とは何か。そして、その視点を地域創⽣や「旅と学び」にどのように活かしているのか。島根県隠岐の島・海⼠町での実体験や、⼈⽣を豊かにするための「リズム」と「緩急」の重要性など、これからの旅のあり⽅について⽰唆に富んだお話をたっぷりと語っていただきました。
ディズニー流の“体験デザイン”と、地域での“⽣きたストーリー”づくり。 その両⽅を知る豊⽥さんならではの視点を、ぜひお楽しみください。
【プロフィール】

豊田 啓道 氏
元 株式会社オリエンタルランド
現 総務省 地域力創造アドバイザー・地域創生コンサルタント
旅はゴールでなくプロセス
ー 最近、印象に残っている旅先はありますか?
豊田:島根県の隠岐の島ですね。昨年 8 ⽉に会社を辞めて地⽅創⽣の仕事を始めましたが、以前から各地を回ることが多くて。仕事を通じて出会った⽅がいて、その⽅が隠岐の島海⼠町でワインを作っているので誘われ、訪れたのですが、とにかく⼼地いい。雰囲気や空気感が「他と違うな」と感じる場所ですね。
島全体にすごくウェルカム感があるんです。魅⼒的な場所や⼈びとがいらっしゃって、ちょっとテーマパークみたいな感覚もある。島が⼩さいので「明⽇はあっちの島に⾏こうかな」みたいに、“島をめぐる旅”の⾯⽩さも感じます。
ー 海士町の魅力は資源だけではなく、”人”もありますよね。
豊田:そうですね。地域を元気にする⼩さなプロジェクトがいくつもあって、それを軸に海⼠町の⼈たちとのつながりが広がっていく感じがあります。単なる観光客では⾏けないような場所にも⾃然に⼊れるようになりますし、たくさんの町の⼈たちにも出会えるんです。
ー 豊田さんにとって旅とは、どういう存在でしょうか。
豊田:旅も学びも、僕にとっては“プロセス”が⼤切です。旅そのものがゴールではなくて、旅をして何かを得ることが⼤事、学びもその新しいものを得たいという⾏為⾃体が⼤切。旅はプロセスであり、ツール。そう捉えると、今やっていることや昨⽇の⾃分を壊してくれたり、アクセントをつけてくれたり、⽴ち⽌まらせてくれたり、ヒントをくれたりする。そして出会い。ロマンスとは⾔わないですが…(笑)。海⼠町に惹かれる理由もそこで、新しい発⾒、気づくことがたくさんあります。
移動がもたらす気づきと人間のリズム
ー なぜ人は旅に惹かれるのだと思いますか?
豊田:旅って、僕らがもっと心豊かになるための最高のマジック・ツールだと思うんです。直感で今いちばん大切で、惹かれるなと感じていることを、シンプルに3つに絞ってみました。
① ゴールは「着くこと」じゃなくて「流れている瞬間」にある
目的地に着くことより、一緒に流れているその瞬間の方が、ずっと濃くて宝物。心が震える実感は、全部そこに詰まっています。
② 旅は時代の鏡だから、変わって当然
100年前と同じである必要はないですよね。スマホを片手に飛行機で飛び回るのも、リモートワークの合間に近場でふらっとするのも、全部「今」の旅の形。時代が変われば旅も変わる。それを素直に受け入れた方が、100倍面白いと思います。
③ 人によって旅はまったく違う。それでいい
遠くへ行くことが旅だと思う人も、近所を歩くだけで新しい自分に出会える人もいます。大事なのは「その人にとっての旅のカタチ」を大切にすること。ですからルールは一つもいらないんです。
旅の最中、心が跳ねて「あ、いま感じているな」と感じるだけで、もう十分すぎるくらい豊かになれます。ですから、僕は旅を「より心豊かになるための、最高にシンプルで強力なマジック・ツール」と捉えています。
ー 人間はもともと遊牧民族だったような、DNAレベルの感覚でしょうか。
豊田:あると思います。束縛から解放される感覚というか。毎日のつまらなさとか、強制される環境から抜け出す感じ。しかし、逃げるだけでは満たされない。 だからこそ、どこかで「意味」や「目的」を求める。つまりエスケープとミッションは表裏一体なんです。
昔、「大人のリゾート」というテーマで、リタイアした人と現役世代(50代)にグループインタビューをしたことがあります。明確に違ったのは、現役世代は「どこかの島に行きたい」と“エスケープ願望”が強く、一方でリタイアした人は“ミッション”を欲しがる。これは予想外でした。
その議論の中で出てきたモデルが“自転車”でした。坂を登ると辛い、漕ぎたくない。下りはスピードが出すぎる。人生も同じで、坂ならゆっくりしたいし、下りなら止まりたい、漕ぐのをやめたい。
つまり必要なのは“リズム”だと思うんです。リズム感を持って生きるということ。日常と非日常、その“緩急”が大事だと思います。
“感動”をつくるということ
ー 人生に必要な「リズム」や「緩急」、そして旅や学びを「プロセス」として捉えるその視点は、どのようなご経験から培われたのでしょうか。豊田さんの価値観の”原点”を教えてください。
豊田:おそらくディズニーでの経験ですね。個人の経験というより、仕事としてディズニーをずっとやってきたことが大きい。旅も同じですが「どう楽しんでいただけるか」「どんな価値があるか」を考える機会がとにかく多かったんです。
ディズニーでは、そういう考えに対して莫大なお金をかけて装置をつくり、サービスをつくり、それを世に出していく。でも見誤ると「自分のせいで何億円が飛んだ」みたいなこともある(笑)。一方で目の前のゲストがいますから、「盛り上がりが少ない、人気がない」とか「ここの作りダメだな」とか。一部の人だけが喜んでいる状態を見ると「それはディズニーらしくないよね」と思うわけです。
ディズニーのプロダクトは、モノではなく“幸せ感”です。ディズニーでは「ハピネス」と言いますが、その出来具合こそが僕らの商品でした。アトラクションに乗ってもらうことも、ショーを見ることも、モノを買ってもらうこともゴールではなくて、家族に「どういう思い出をつくってもらうか」がゴールなのです。
そういう視点で見ると、旅も同じ“体験”なので見方が似てくるんです。エクスペリエンスデザインというか。
ー AI時代においての人間の価値というのは、人の心を動かすとか、笑顔をつくるとか、極めてエモーショナルな領域になると思います。そこはディズニーが得意とするところだと思いますが、豊田さんご自身はどうお考えでしょうか。
豊田:難しいですけど、考えていない人より、考えている人の方が確実に近づけますね。ただ“セオリー”や“手順”は明確には分からない。結局は経験則です。
いま、ディズニーシーで「Believe」という海のショーをやっていますが、僕が在籍中に天才的なコスチュームデザイナーが東京に来て作っていました。
彼が描いたピーターパンが最高にカッコよくて本当に驚いたんです。これまでのピーターパンって子どもの世界観を抜け出せていなかったけど、彼の描いたピーターは大人っぽくシュッとしているんです。
あるとき、その彼がこう言いました。
「いいか、俺たちは“今目の前にいる5歳の子どもが、20歳になった時に、あのショーが家族で行った最高の思い出だった”と言わせるんだ」
これを聞いた時、ものすごく悔しくて。というのも、僕もずっと同じことを考えていましたし、30年そういうつもりで仕事をしてきたから。でもそれを彼がすごく分かりやすい言葉で表現したんです。
結局「感動をどう作るか」なんだと思います。A、B、Cの手順があるわけではなく、チーム全体が思いをひとつにして「どうやるか?」と向き合い、それぞれの持つ技術や表現を融合させる。そこに明確なゴールがなければ絶対に良いものは生まれません。5歳の子どもが15年後に「最高の思い出だった」というものを、どうやって仕掛けるのか。そこは自分たちの経験則でやっていくしかないのかなと思います。
(*後編へ続く)
インタビュー・構成・執筆:吉田 麻美(THINK AND DIALOGUE)
文責:殿元 綾花(ANAホールディングス)、吉田 麻美



