「人は、旅で学び合う」〜協議会 理事らの対話から広がる未来〜
戸隠神社の参道で語られた、協議会への想い
7月中旬、長野・飯綱高原で開催された「旅と学びの協議会」サミット。
普段、多忙を極める理事3名が本サミットに集うということで、「これはチャンス!と、協議会事務局によるインタビューを実施しました。
場所は戸隠神社。ひんやりとした空気、深い緑に囲まれた神聖なる空間。
そんなありがたい参道を、3名の男性たちが本協議会への熱い想いを語りながら歩きます。(パツパツのサミットスケジュールの合間をぬって、ようやく捻出した移動時間に本対談は実施されました)
次第に勾配がキツくなる(※)とともに、理事たちの呼吸も荒くなり…。
さてさて、どのような結末が待ち受けているのか。
本記事では、そんな前代未聞の「参道対談」の様子をお届けします!
(※)戸隠神社を訪れたことのある方はご存知かと思いますが、中盤以降、道がかなり険しくなります。
今回対談した理事3名

(左)ANAホールディングス株式会社 上席執行役員、未来創造室長 津田 佳明 氏
(中央)楽天グループ株式会社 常務執行役員 Group CCuO(チーフカルチャーオフィサー)小林 正忠 氏
(右)駒澤女子大学観光文化学部 教授 鮫島 卓 氏
アスレチックに隠れていた、組織と人の関係性

長野の森の中で行われたアクティビティ。中でも印象的だったのが、目隠しをして挑むチームビルディング型のアスレチック。
対談のはじまりは、自然とこの振り返りからスタートしました。
津田さん:いや〜、身体使いましたよね。思っていた以上に、アクティビティがもりだくさんだった。
他の理事たちも笑いながら頷き、談笑が広がります。
中でも小林さんは、あのワークの中に「単なるレクリエーション」を超えた本質があったと語ります。
小林さん:目隠しをして進むあのワーク、完全に「マネジメントの縮図」だった。
「今どこにいるのか」「次に何があるのか」を伝えることって、実際の職場でもものすごく重要。今回、途中で褒めてもらえると、驚くほど安心したみたいで。
これはまさに体験したからこその気づき。
言葉のタイミング、声のトーン、今どんな状況にあるかを伝える配慮。それらすべてが、リアルなマネジメントの現場と地続きであることに、自ずと気付かされます。
津田さん:普段、管理職がそれを意識的にできているかって言われると・・・難しいよね。でもあの体験で「褒める力」がこんなに効くんだって実感したよね。
ミドルマネジャーの育成や、組織づくりに活かせる視点がつまった濃密なワークだったことを、参加した理事たちは感じたようです。
旅とは、「誰と行き、誰と出会う」か。

対話は「旅とは何か?」という本質的な問いへと移っていきました。
旅と学びの協議会事務局長の松本さんがこう投げかけます。
「みなさんにとって、“旅”とは何ですか?」
小林さん:僕にとって大きな要素は、「誰と行くか」ですね。場所よりも、一緒に旅をする人の存在がすべてを左右する。同じ場所でも、誰と行くかで、得るものがまったく変わるんです。
津田さん:それに、旅先で「誰と出会うか」も重要ですよね。地元の人と自然な関係性が生まれると、また行きたくなる。その場所が「自分の物語」の一部になる感じですよね。
それは、単なる観光ではなく「関係のある旅」という視点。
鮫島さん:そうなんです!観光って、“サービス提供者”と“受け手”という構図で語られがちですが、実際には旅人も、提供する側も、お互いに影響し合っていて。旅って、関係性の中で意味が生まれるものなんですよ。
旅とは「移動」ではなく、「関係性の創出」そのもの。そしてその関係性には、自然発生だけではなく、意図と構造が必要なのかもしれません。
「まなびの旅」に欠かせない、ブリッジパーソンの存在

ここから話題は、「その関係性をどう生み出すか」というテーマへと展開していきました。
小林さん:でも、そういう「関係が生まれる旅」って、勝手には起きないですよね。間に立ってつなぐ人がいないと、ただの楽しい体験で終わっちゃう。
津田さんは、南大隅町や加計呂麻島で過去に開催されたサミットでの体験を振り返ります。
津田さん:たとえば、地元の人たちが集会所で開いてくれた宴会とかって、普通のツアーでは絶対にできない体験。でも、それを可能にしたのは、間に立ってくれる「誰か」の存在だったんですよね。
「旅人と地域をつなぐ人」
「体験をまなびに変える人」
そうした仲介者=ブリッジパーソンの存在が、「まなびの旅」を形づくっていくのです。
鮫島さん:その人がいるだけで、旅はまったく違うものになる。意味を発見できるかどうかって、受け取り手だけの力じゃないんですよね。
松本さん(協議会事務局長):そういう人たちと一緒に旅をつくっていく。それが協議会としての、これからの大きなミッションかもしれません。
「商品」か「自己満足」か。そのあいだを模索する

続いて話は、「この協議会での活動をどう展開していくか」というテーマに移りました。
小林さん:僕ら「協議会」がやっていることって、もしかすると「自己満足」で終わっていないかな、って思うときがあるんですよ。「旅っていいよね」と、共感する仲間内だけで満足してしまっている感じがあって。
松本さん:そうですよね。せっかく社会実装しやすい土壌があるので、体験をプログラムとして形にして、地域や企業と連携しながら広げていきたいと思っています。
津田さん:これまでのような「クローズドな場」だけでなくて、もっと色々な人が参加できるような「場」として育てていけるといいですよね。
プログラム化と、即物的な商品化の違い。
自己満足から、社会的価値への転換。
そのバランスをどう取るかが、今後の大きな鍵になりそうです。
体験は、五感でしか得られない

話は、今回の旅を通じて得た「体験の質」にも及びました。体験は、ただ楽しいだけでなく、思考と感覚をつなぐ「まなびの素材」になる。そしてそれは、バーチャルでは決して再現できないものです。
三次元の空間では、身体を使い、自然に触れ、五感で感じることを通して得られる学びの要素が高く、そこはバーチャルで代替することは難しい点です。
また、単に楽しい・面白いだけではなく、自分の感性や思考に触れる瞬間を味わうことで、旅に意味や価値が生まれる…。だからこそ、「旅」という手法が今、あらためて価値を持つのではないでしょうか。
「まなびの旅」を推進する協議会の活動の原点にも、これらの想いが含まれます。
まだ答えはない。でも、問いを持つ仲間がいる
対話の終盤、話題は「旅と学びの協議会」のこれからへと向かいます。
「この活動をどこへつなげていくのか?」
それは、理事や事務局の私たちが日々抱いている問いでもあります。
小林さん:僕たちがやっていることって、商品として完成させるのか、それとも、もっと小さな学びの連鎖を大事にしていくのか。まだ明確なゴールは見えていない気がするんですよね。
その言葉に、誰もが一瞬、静かにうなずきました。
でも、だからこそ、この協議会には意味があるのかもしれません。
明確な正解がないからこそ「問いを持つ仲間」が集まり続ける。
社会実装という言葉に重みを持たせながら、さまざまな人たちと、地域と、企業と、共につくっていく。「答えを出す場」ではなくて、「問いを深める場」として。
「旅とまなび」は、誰のものか?
この対話を通じて見えてきたのは、
「旅」は自ら意味を見出すもの。
「まなび」は、人との関係性の中に自然と立ち上がってくるもの。
「旅と学びの協議会」が担っているのは、そのふたつをつなぐ「構造」と「場」をつくること。
ただの観光でも、型にはまった研修でもない。
人と人とが交わる「まなびの体験」を、社会に実装していく取り組みです。
そこにあるのは、仕組みではなく「人」。
正解ではなく「問い」。
そして、未来への手触り。
「未来の社会」を、ここからつくる
教育も、企業も、まちづくりも。
かつては別々だった領域が、いま交差し始めています。
その交差点で、旅というフィールドは、人の感覚と社会の接点を回復させる力を持っているのではないでしょうか。
本協議会は、6期を迎えたばかり。
明確な答えはないけれど、だからこそ、面白い。
旅のように、風に吹かれて、足で探し、語り合いながら。
人と人がまなび合い、未来をつくっていくプロジェクト。
それが、「旅と学びの協議会」の目指す姿です。
一緒に、「まなびの旅」をつくりませんか?
今後も私たちは、全国各地で「まなびの旅」を展開していきます。
地域、企業、学校、個人―
それぞれの想いとフィールドをつなぎながら、問いを共有する仲間を増やしていきます。
・自分も新しいまなびのカタチを探している
・人と人の関係性を大切にしたい
・社会に働きかけるプロジェクトを始めてみたい
そんな方は、ぜひ気軽に声をかけてください。
次の「まなびの旅」で、あなたにお会いできることを楽しみにしています。
おまけ:結びにもう一度、あの石段のことを
なかば強引に始まった、戸隠神社での「参道対談」。
結局、最後まで語り切ることはできず、坂道と息切れに阻まれて、途中で終了となってしまいました。
けれどもあの対話には、不思議な熱と誠実さが宿っていました。
正解を決めるためではなく、問いを抱えたまま、歩きながら、探していく―
その姿そのものが、「旅と学びの協議会」のあり方を体現していたように思います。
私たちの旅は、まだまだ始まったばかりです。
協議会が歩んでいく未来に、どうぞご期待ください。

インタビュアー:松本英明(ANAHD)齋藤若菜(ANAHD)
構成・文責:殿元綾花(ANAHD)吉田麻美(THINK AND DIALOGUE)
