世界は想像するよりもずっと優しい場所だった 〜15歳からはじまる学びの旅〜
“旅してまなぶ”とは、大人のものだけじゃない
たった数週間の体験が、世界の見え方を変え、価値観を変え、未来への道筋さえ変えてしまう。今回は、そんな旅の可能性を、ひとりの中学生の視点から見つめてみました。
登場するのは、旅と学びの協議会の会員の息子さん、中学3年生の航平くん。2025年夏休み、「ワクワク」と「なんとかなるっしょ」精神を胸にイギリス短期留学へと旅立ちました。小さい頃は海や山で自然と触れ合い、海外大学進学を目指したいと夢を抱いた少年は、短期留学を通じて“外の世界”と出逢いました。イギリスで過ごした数週間は、学び以上に、人の優しさや文化の違い、自分自身の在り方を映し出す時間だったといいます。
海と山が育んだ原体験と、海外への憧れ
ー まず初めに、なぜ海外へいきたいと思ったか教えてもらえる?
最初のきっかけは、小学校6年間通った地元の海や山をフィールドとするアフタースクールです。海に潜ったりサーフィンをしたり、山を駆け回ったりして過ごした経験が、自分の人格を作ってくれた気がしています。そしてそこで出会った大学生のコーチが、日本の高校を卒業後、アメリカの大学へ進学していて、話を聞くうちに自分も海外の大学に行きたいと思うようになりました。
一方で、日本の大学についても色々調べたり聞いたりしていて、何となくですが、入学したら終わりという感が否めなかったんです。もちろんそうではない大学もあると思いますが、本当に自分のやりたいことができるのかなという気持ちがあって。最初はカリフォルニア大学に行きたいと漠然と考えていました。

ー アメリカの大学でどんなことが学びたいと思っていたの?
父親が人とのコミュニケーションを扱う仕事をしている影響もあって、自分も人と対話しながら、その人を良い方向に導いていきたいという思いがありました。自分なりに調べたらカリフォルニア大学にコミュニケーションを学べる学科があると知って、そこで勉強したいと思ったんです。
ー 今回はアメリカではなくイギリスへの短期留学だったよね。なぜイギリスか、どんなスケジュールだったのか教えてもらえるかな。
アメリカは治安が不安で、エージェントさんの話も聞いた上でイギリスに決めました。最初の4日間は母とロンドンを観光し、その後1週間はロンドン近郊の語学学校で寮生活。英語の勉強というより異文化コミュニケーションの時間が多く、ヨーロッパからの参加者が多かったです。最後の8日間は母の友人のお父さんであり、オックスフォード大学の研究員でもある方のご自宅にホームステイさせてもらいました。

他者と共に楽しむこと、自分を表現すること
ー イギリスへ行く前と後では気持ちや実際の生活に変化はあった?
色んなことが180度変わった気がします。語学学校ではイギリス人とはあまり関わりませんでしたが、先生や生徒はヨーロッパ全土から来ていて。日本にはない「恥ずかしがらずにみんなでやろうぜ」という雰囲気がすごく楽しくて、自分に合っているなと思いました。夜、友だちと音楽を流して踊ったり、騒いだり、そんな些細なこともとても楽しかったですね。日本人は「謙虚が美徳」と言いますが、それは人種の違いではなく個々の違いだと思いましたし、楽しむことの大切さを感じました。
ー 自己主張というのとはまた別で、周りを気にせずに楽しむ、表現するということが自分に合うというか、大事だと気づいたという感じ?
そうですね。授業やワークでも「みんなでやろう」という雰囲気が自然にあって、それもすごく良い思い出です。
イギリス人とはホームステイ中に街やお店で関わった程度ですが、みんな本当に優しくて驚きました。街で少しでも困っている人がいれば我先にと積極的に手助けしますし、店員さんもフランクに話しかけてくれる。日本とは全然違うなと思いました。
ー うん、そうだね。みんな、抵抗なく声をかけるよね。航平くんが日本に帰ってきて、声かけとか手助けとか、積極的にしようと思った?
はい、思いました。人の目を気にしなくなるというか、どうでも良いなって思えるようになりました。今通っているのが男子校なので、もともとあまり気にならないんですが、それが加速した気がします。

世界は想像よりもずっと身近で優しい場所だった
ー イギリスへ行くのも自分で決めたし、ワクワクしていたと思うんだけれど、渡航前に不安や心配なことはあったかな?
色んな人に聞かれるんですけれど、不安よりも夢が叶うワクワクの方が大きかったですね。実感が湧いてなかったのかもしれないし、英語に自信があったわけでもないけれど「なんとかなるっしょ」的な気持ちで(笑)。本来は心配性ですけれど…。
ー なんとなるという気持ちは大事だよね。今回、色んな体験したと思うけれど、一番印象に残っていることはあるかな。
実は、ホームスティ先で自転車を貸してもらったんです。ちょうど行きたいお店があったので、オックスフォードの街へ自転車で向いました。買い物を終えて帰る途中、袋が引っかかってしまい、道の真ん中で激しく転倒してしまって…。すると5人くらいがすぐに「大丈夫?!」と駆け寄って助けてくれました。めちゃくちゃ恥ずかしかったんですが、すごく嬉しくて。日本でも助けてくれると思いますが、こんなに大勢が一気に来てくれる感じではないなって。

ー それはすごく良い経験だね。ほかに、滞在中に感動したことや驚いたことはあったかな?
一番嬉しかったのは語学学校でMVPのような賞をもらえたことです。英語が特別できたわけではなかったので理由を聞いたら「Be niceだったから」と言われて(笑)、すごく嬉しかったですね。
反対に驚いたことは、寮で友だちと世界中の人と繋がるというコンセプトのビデオチャットをしていた時に、アジア人を吊り目で表現されたこと。僕に対して差別があったわけではないのですが、初めて触れて「そういうイメージがあるんだ」と思いました。
ー なるほど…。それもまた良い経験だったね。では今回の経験を通して得た気づきや学びを、これからどう繋げていきたいと思ったかな。
留学自体がやりたかったことなので、それがより鮮明になりましたし、目指したい大学が変わりました。ロンドンでは数日過ごしただけですが、雰囲気や人の感じがすごく良くて、自分もここで暮らしたいと思ったんです。実際、ロンドンに住み大学に通っている人からも話も聞いて、「ロンドン大学に行きたい、学びたい」という思いが強くなりました。

外に出ることで見えること、広がる世界がある
ー いいね!新しい目標ができたって感じだね。留学前にこれを準備しておけばよかったなということがあれば教えてくれる?
文法も大事ですが、日常生活で使うフレーズをもっと練習しておけばよかったです。店員さんのスピードについていけず、食べたいものと違うものが出てきたり、知らない言葉に焦ることも多かったです。お店の人や街の人たちともっと会話を楽しみたかったので、次回までの課題ですね。
ー 海外に出て色んな気づきがあったと思うんだけれど、自分の国や自分自身について気づいたことはあるかな?それと最後に、同世代とか少し年上の人たちで、海外に行こうか迷っている人たちに何かメッセージがあればお願いします。
自分については「全然、行けちゃうな」と思いました(笑)。外国人も「人」という意味では同じで、そこまで大きな違いはないし身構える必要はないと感じました。
日本については、もっと自分を表現して良いんじゃないかと思いました。「謙虚さが美徳」は日本の良さだと思いますが、足枷になることもある。向こうでは、教室の中でもみんなが積極的に手を挙げ、意見もどんどん出ます。一方、日本では小学生の頃は積極的でも、年齢を重ねるにつれ消極的になる。もっと自分の感じたことを表現すべきだし、それがポジティブであることも大事。「キミ、良いね!」「その考え方、ナイスだね!」という言葉が飛び交えば、もっと良い国になると思います。
メッセージは…海外に触れるのは自分を知る上でもすごく良い経験になるなと思いました。僕はどんどんいろんなことに挑戦したいと思っているので、中学3年で体験できたのは本当に良かったですし、実際に経験することで価値観がひっくり返ったり、すごい気づきを得られます。自分のお金で行ったわけではないので偉そうなことは言えませんが、凝り固まらず外の世界を見るのは大事だと思うので、世代関係なく海外旅行や海外留学を勧めたいですね。

インタビュアー:松本英明(ANAホールディングス)
構成・編集・文責:吉田麻美(THINK AND DIALOGUE)
