旅と学びの協議会シンポジウムVol.7
イベントレポート

「旅と学びの協議会シンポジウムVol.7」をドルトン東京学園中等部・高等部にて開催しました!第7弾のテーマは「人とのつながり」。このページでは、当日のイベントについてご紹介します!

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【更新日】
2023/4/25 撮り旅(株式会社AOI Pro.)
2023/5/18  研究部(日本アイビーエム株式会社)NEW!
第1部

オープニング

オープニングでは、立命館アジア太平洋大学(APU)学長で本協議会理事の出口治明先生からご挨拶がありました。みなさまにはサプライズで、APUからご登場いただきました!

〜出口先生メッセージ〜

旅をすれば人と出会い、多彩な価値観に出会います。

コロナ禍を経験した僕たちが旅に出てどう変わったのか、旅人を迎える地域の取り組みがどう変わったか、そういう観点から今日は確かな問題意識を持って取り組みたいと思っています。

それでは、みなさん一緒に旅と学びの話を聞きましょう!

協議会が考える
「旅と学び」とは?

本協議会では、これからの時代を生き抜く力をつけるために「旅」での「学び」に可能性を感じ、賛同した会員の皆様と旅の価値や旅からの学びの可能性について考え、活動してきました。
その活動について、ANAホールディングスの松本よりご紹介します。
松本氏:ただいまご紹介に預かりました、ANAホールディングスの松本と申します。本日はよろしくお願いいたします。今日は初めて参加される方もいらっしゃると思いますので、皆さんと旅と学びについて楽しく考えて、交流して繋がりができたらと思っております!

まず本協議会の設立背景ですが、「知識習得型」の教育から21世紀型スキル「未来を切り開く力」を身につけていこう、ということから、日常(コンフォートゾーン)から飛び出して、アンコンフォートゾーンで21世紀型スキルを身につける経験が大切で、それには「旅」が最適なのではないかと考えています。

そこで、旅と学びに関する仮説検証を行って、これまで行われてこなかった検証に挑戦しようということになり、今3期の活動をしております。

■VUCAの時代を「楽しんで」旅と学びに関して学ぼう

コロナ禍で立ち上がったため、企画しても実施できなかったことがあり、今年度は58団体の会員の皆様とVUCAの時代を「楽しんで」旅と学びに関して学ぶ、という目標を立てて活動してきました。

1期2期から継続のプロジェクトや新たにプロジェクトが10ほど出きました。また少額ながら、協議会内でプロジェクト補助金を活用した活動もしました。

研究では、今年度は自ら旅をして仮説を立てて検証し、分析したものを論文にしたり、レポートにしました。
広報では、今年度初めて「旅と学びの協議会サミット」というリアルイベントを開催しました。これは、入会されている自治体や企業の関係性の深い地域に実際に旅して、旅のプログラムを作り効果検証をすること、会員同士の交流を目的としています。また「旅と学びカレッジ」という、オンラインでの勉強会も開催しました。
運営には、ANA以外のメンバーも入ってくださっています。
■旅から学ぶ、それを科学する。

我々がどのように旅を捉えるか、学びを捉えるかというのは、我々なりに考えていかなければならないということで、ディスカッションをスタートしています。これは最終版ではないもので、これからどんどんアップデートしていくものです。

この体系化に取り組むプロジェクトも立ち上がりましたので、ご関心のある方はぜひ一緒に活動できればと思います。

 旅には、旅前・旅中・旅後の3つのフェーズがあり、旅の要素としては図のようにいくつもあると考えています。旅の予定を立てたり、旅の後は振り返りをしたり、しない方がいらっしゃると思いますが、そういったことも旅での学びに繋がるかもしれません。

学びとしては、協議会が考えているものはこのようなものがあります。

・21世紀型スキル、ジェネリックスキル
・Well-being
・学びのプロセス(経験学習理論)
・五感で楽しむ、自分のものさし、価値観の変容

4期以降は、「五感で楽しむ」ということにも注力していきたいと考えています。

科学するという点では、旅とジェネリック・スキルに関する先行研究、前野先生のWell-being指標(幸せの4つの因子)、学ぶメカニズムなど用いて分析をしています。
今後は、「五感」をテーマに感動分析など客観的な指標やテクノロジーを用いたような分析方法など、新しい手法なども含めて洗い出しをしていきます。
■グループ旅行における人的交流がジェネリック・スキルに与える影響

2022年7月に、埼玉県飯能市にて「多様な文化」、本イベントのテーマである「人との繋がり」の要素を活用した旅のイベントを行いました。
特に参加者の「ジェネリック・スキル」がその旅でどうなったか、について鮫島先生にアドバイスをいただきながら、日本観光学会でも発表させていただいたので、その内容をかいつまんで発表します。

(この研究に関するプレスリリースはこちらからご覧いただけます)

旅における、人的交流が教育効果に何らかの効果があるということが分かってきていたので、「グループ旅行における人的交流の質(参加者同士の交流、地域住民との交流、参加者属性)」とジェネリックスキルの関係性を見てみました。

n数は少ないですが、参加者は12名。
観光地を巡ることやアクティビティがメインで、会員同士が楽しむ「観光コース」と、地域住民との交流を目的とした「地域交流コース」に分かれ、旅行をしました。

株式会社SHINKAの田中さん(本協議会 会員)の施設「ALIVE サステナブルラボ飯能」も使用させていただきました。
調査方法は質問表調査を用いて、参加者の「個人属性」「42個のジェネリックスキル(以下スキル)」、またn数が少ないため、テキストで「成長や改善位つながったと感じた理由」や「きっかけとなった経験と出来事」を回答いただきました。

分析手法としては、各コースのスキルの特徴、表出頻度が高いスキルに対する因子分析、KH Coderテキスト分析を用いました。
■コース別の成長スキルが明らかに!
両コースで共通しているスキルは、「認知や気づき」、「関係構築」、「いろんな方の中で気楽にありのままでいられる」でした。
また、それぞれのコースの特徴があり、改善されたスキルについての以下の回答がありました。

  • 観光コース:「調整」「寛容さ」
  • 地域交流コース:「効果的なコミュニケーション」「文化や言語の多様な環境における適用性」
テキストの分析結果は以下の通りです。
地域交流コース:「感じる」などの動詞や「コミュニケーション」「会話」「人」などの地域住民との人的交流に関する言葉の頻度が高く、会話から成長を感じる特徴が見られた

観光コース:「カヌー」「川遊び」などアクティビティや行動を表す名詞が頻度高いワードとして表出し、「調整」と「行動」の関係性の強度が現れたことから、経験に関わる感情の高ぶりと、参加者同士の意思決定に関わる調整が特徴


まとめとしては、以上のような全体的な特徴とコース別の特徴がわかりました。
地域交流コースでは、「効果的なコミュニケーション」「文化や言語の多様な環境における適用性」というところで、地域の人や一緒に旅をする方達と対話する中で違う価値観などを理解しようとしたり、地元の方に対しての会話の中で話し方を工夫されたりしていました。

観光コースでは、あらかじめ行く場所は決まっていましたが、グループ内のメンバーは初対面。行程の中でお互いの個性を理解しながらチームとして協調性を高めていった、一緒に行動するメンバーとの対話や行動に注力していた等のコメントがあり、そういったことから「寛容さ」「調整」が必要だったのかと思っております。

今後はさらにn数を増やして、調べていきたいと思っております。
まだまだ調べられていないことは沢山ありますので、ご興味のある方は是非お声がけください!
第二部

プロジェクト発表

本協議会では、会員が主体的にプロジェクトリーダーやメンバーとなり、会員である地域や学校、企業が連携した旅を用いた教育プログラムやリカレント教育の開発を行っています。
今年度の活動の中から、4つのプロジェクトをご紹介します。

地域の魅力を映像にしよう!撮り旅プロジェクト

鳥居氏:皆様こんにちは。初めまして。株式会社AOI Pro.の鳥居碧と申します。よろしくお願い致します。

弊社は、広告映像制作をコアビジネスとしている映像制作会社で、CM・映画・ドラマ・ミュージックビデオなどの映像を年間1000本ほど制作しております。
最近ですと、例えばグラミー賞 受賞歌手のエド・シーランさんとポケモンがコラボしたミュージックビデオですとか、ドラマ「Silent」も弊社が制作をいたしまして、かなり話題を呼びました。

そんな弊社が、2021年の末頃に旅と学びの協議会に入会いたしまして、旅と映像とを掛け合わせて何かできないかと立ち上げたのが、「撮り旅」プロジェクトです。
学生たちと旅をして、それぞれが感じたその地域の魅力を撮影・編集し、地域のPR映像としてアウトプットする、というプロジェクトです。
旅×映像でどういった教育効果があるのかを見てみたい、という想いもありましたし、近年YoutubeやSNSの流行により、若い世代にとって映像を撮って発信することが当たり前のことに
なってきています。若い世代の方々がただ撮影をして発信をするだけでなく、効果的な撮り方や発信の仕方を学ぶことで、学生たちが地域に愛着を持って地域の映像を発信してくれたら、それは地域活性化につながるのではないか、という想いを持ちながら、このプロジェクトを立ち上げました。
■撮り旅の3つの目的

目的としてあげたのは、3つです。
・若い世代のチカラと映像のチカラで地域創生に繋げる
私共のような映像制作会社が自治体の皆様からPR映像を発注いただくことは多々あり、プロですのでクオリティの高い映像を納品させていただくのですが、その1本を作って話題になったとしても、大体はそこで終わってしまいます。それも必要なことなのですが、それだけではなく、若い世代の方々にとって映像が身近な存在であるこの時代だからこそ、学生たちが映像のチカラで地域活性に繋げる、長く続くサイクルを作るということを目的として考えております。
 
・映像制作から得られる多くの学びを学生に提供し、成長をサポート
弊社は、このプロジェクトでの「映像制作」はツールであると考えています。はじめに企画をし、自分がPRしたいものをPRするにはどうしたらいいのか考え抜く力や、壁にぶつかった時に解決する力、アポイントを取る時のコミュニケーション能力等、学生の皆さんに社会で必要な多くの力を習得していただきたい、と思っています。
 
・学生に旅やクリエイティブの楽しさを感じてもらう
旅をすること、何かを創り出す「クリエイティブ」な作業の楽しさを皆さんに実感して欲しいと考えています。


■最短3日間で映像完成!撮り旅の流れ
まずは、旅の計画と企画の作業を行います。
地域のことをリサーチし、自分はその地域の何に魅力を感じるかを考え、テーマを決めて企画作りを行います。取材の許可取りなども学生が行うため、そこから地域との交流が生まれています。そして香盤と呼ばれる、行程表を作り準備を整えます。

そして、旅(撮影)当日はカメラだけでなく、ジンバルやドローンなどのプロが使う機材を使用して撮影をします。まずは旅自体を楽しんでもらうことや、地域の皆さんと交流をすることもかなり重視して行っていました。

最後に旅で撮った素材を編集して、制作した動画の試写会をし、発信していくという流れです。最短で3日間(企画・撮影・編集/配信を1日ずつ)で行っていました。学校によっては半年以上かけて実施したケースもあります。活動実績としては、参加した学生は総勢80名、作品はチームで作成したものもあり32作品が完成しました。
参加者が多かった松山大学さんを例に挙げて、ご紹介します。

昨年3月に松山大学さんでトライアルを実施し感触がよかったため、本始動として5月に説明会を実施。60名の学生が説明会に参加、その上で参加表明をした学生が40名いました。人数が多かったため、参加する学生に県内のどこへ行きたいかアンケートをとり、選ばれた5つの地域へ日程を分けて撮影に行きました。最終的に映像が完成したのは33名で、成果発表会にて作品を発表しました。その中でも、特に評価が高かった作品を皆さんにご覧いただければと思います。

撮り旅in松山 シネマティック三津浜(松山大学)

松山市の三津浜という港町を取り上げた作品です。地元の方に「三津浜はどんなところですか?」と聞くと「何もないところだよ」とおっしゃるのですが、若い世代からするとノスタルジックな雰囲気が「映える」とのことで、おしゃれなカフェやセルフ写真館などもあり、デートスポットや友達同士で遊ぶ場所になっているそうです。こちらは学生さんの目線だからこそできた作品だなと思っております。

■撮り旅で得られた「学び」のスキルとは
アンケートを実施しましたので、その結果をご報告させていただきます。
参加された80名中で回答者は64名だったのですが、5つの質問に答えてもらいました。

設問①成長した・改善したと思うスキルは?
一番多かったのは「創造性」でした。2番目に多かったのは、「効果的なコミュニケーション」「問題解決力」。そして3番目に「目標達成のための計画性」「学ぶ意思や能力、学び続ける能力」「関係構築・維持」などが挙げられました。
地域を盛り上げるための映像を制作するということだけでなく、地域の方々と交流・取材をしてその想いを感じながら撮影したことが、効果的な21世紀スキルの習得につながったのではないかと考えております。

設問②撮り旅を通して、旅をした街を好きになりましたか?
設問③撮り旅を通して、旅をした街の魅力を発見できましたか?
答えに関しては、9割以上の学生が街を好きになった、街の新たな魅力を発見できたと回答がありました。
設問④また映像を作りたいと思いますか?については、編者の自作自演にも見えますが(笑)100%が「そう思う」と好評の声を頂きました。
設問⑤今回の撮り旅の感想や良かった点、改善して欲しい点などがあれば教えてください。

こちらは、回答からいくつか抜粋したものです。
​​・元から映像に興味があった人もそうでない人にとっても凄く意味のあるプロジェクトだと思いました。(18歳 男性)

・撮影させていただいた施設の方々と関わることで地域活性化とはどの様な達成感があるのか学ぶことができ、本当に参加してよかったと思うことができました。ありがとうございました。(20歳 女性)

・動画撮影や制作という単純なスキルだけでなく、人との繋がりやチームワーク、そして一人一人の意見を聞き合い尊重するといったような、人との関わりの大切さや繋がりを強く感じることができたプロジェクトだったと感じました。(21歳 女性)

・この撮り旅を通して動画撮影編集だけでなく、地域活性化や多くの課題解決に取り組むことが出来てよかったです。とても楽しく良い経験になりました。(19歳 女性)

■2023年度も各地で実施・拡大を予定しています
当初掲げていた三つの目的は達成できたのかなと思っております。
皆様からも好評で、ありがたいことに、全ての実施した自治体・学校教育機関の皆様から今年も実施させてください!とお声をいただいております。また、新規のご依頼もいただいておりますので、さらに拡大していきたいなと思っております。
もしご興味がある方がいらっしゃいましたら、お気軽にお声がけいただけますと幸いです!
撮り旅 公式Youtubeチャンネル
今日お見せした映像以外にも、魅力的な映像がありますので、ぜひフォローしていただけると嬉しいです。

撮り旅 〜 produced by AOI Pro. 〜
ご静聴いただきありがとうございました。

Q&A & Comments

Q. 参加者:学生さん達を客観的に見て成長したな、と思ったことはありますか?

A. 鳥居氏:80名の学生さんに参加していただいて、いろんな成長が見られました。
特に高校生が参加した撮り旅にて、アポ取りをする際に緊張していらっしゃる様子だったのですが、何回かアポ取りと取材を繰り返していくうちに自信がついて、自らお店に「昨日電話した○○です!!」と自信を持って行っている姿をみて、小さな社会とのつながりが成長に繋がるんだなと思いました。
ドルトンの生徒も、さまざまな動画を作ったりするような場面は結構あって、一人ではなくチームで作るということに教育的な意義があるし、生徒の成長も感じています。
専門家が生徒の作品に手を入れすぎずに、生徒の「自分なりの表現」との両立が肝であると思います。
あとはYoutubeチャンネルでの発信だけでなく、イベント的な盛り上がりがあると面白いのではと思いました。
ドルトン東京学園 中等部・高等部
安居長敏 校長
ドルトンの生徒も、さまざまな動画を作ったりするような場面は結構あって、一人ではなくチームで作るということに教育的な意義があるし、生徒の成長も感じています。
専門家が生徒の作品に手を入れすぎずに、生徒の「自分なりの表現」との両立が肝であると思います。
あとはYoutubeチャンネルでの発信だけでなく、イベント的な盛り上がりがあると面白いのではと思いました。
ドルトン東京学園 中等部・高等部
安居長敏 校長
NEW! 第三部

旅と学びの協議会 研究部
活動内容と活動成果

上甲氏:こんにちは。日本アイ・ビー・エム株式会社の上甲と申します。よろしくお願いいたします。

私から研究部の活動と、その成果の一つであるプロジェクトのご紹介をさせていただきます。 

■研究部の活動

研究部の活動としては、これまでこのシンポジウムでもお話していたように、旅と学びを科学するというところをやっております。

「旅」と言っても色々あるし「学び」にも色々ある中で、研究部では、各自が関心のあるテーマを持ち寄って議論を行い、同じ関心を持つメンバーでプロジェクトを立ち上げるような形で活動しております。

テーマの例としては、「サイクルツーリズム」や「アカデミックツーリズム」をはじめ、もう少し抽象的なテーマですと、「同じ場所に繰り返し行く意義って何だろう?」ですとか、「計画を敢えて立てない意義って何だろう?」「旅と学びを体系化しよう!」など、具体的なものから抽象的なテーマのものまで、各自の興味のままに活動をしております。

本日は「短期海外留学プログラムにおけるグループでの学び、人と人との繋がりと学び」というテーマで、APUさんと一緒にプロジェクトを進めましたのでご紹介します。

APUの筒井先生、チョン先生、カッティング先生という方々と一緒に進めておりました。

■背景・目的
<短期海外留学の現状>
 
短期海外留学のご経験がある方も多いかと思います。
大学の授業のカリキュラムという事を考えると、いかに教育の質を担保してるかという部分が大事になってきます。
では、どうやって教育の質を担保するのかというと、プログラムに行く「前」と「後」が大事だろうと。
 
・プログラムに行く前⇒学習理論に基づくプログラム開発
学習理論というのは、人が一体どのように学んで、学んだ知識をどのように活かしていくかという理論なんですけれども。
「経験学習理論(Kolb)」というのがあって、学びを得るには具体的経験が必要である。
更には、具体的経験に基づいた振り返り・内省が必要である。
それを踏まえて新しいことに適用していく、というサイクル・経験学習理論に基づいたプログラムを作るということ。
経験学習理論に基づいたプログラムというのは、プログラムの中に何かしら仕掛けを作る、敢えて振り返りの時間を作ったり、現地の人との交流が生まれるような経験を作るとか、そのような仕掛けがポイントになってきます。
 
・プログラムに行った後⇒教育的成果の検証
経験学習理論に基づいたプログラム、そういった教育的仕掛けが、
いったい人の学びのプロセスにどう影響を与えて、どのような成果があったのかというのを検証していきます。
<学習理論に基づく短期海外留学プログラムの例>
具体的な例として、APUさんの「FIRST」(短期海外留学プログラム)をご紹介します。
FIRSTは、APUの学生が国内外に赴きそこで初めて出会う人々と交流をするといったもので、
大体1週間弱くらいの期間をグループで活動します。
まさしく経験学習理論ですとか、不確実性・不安調整理論に基づいた様々な仕掛けを施したプログラムです。
<課題>

留学プログラムの効果の検証が難しいのが課題です。
何故かと言いますと、留学プログラムの内容が多岐に渡っていて、渡航先が違えば教育的仕掛けも異なりますし、そこで何をするかも違うと。
学びの成果という観点でも、同じ経験をしたとしても、ある生徒には効果があっても他の生徒には効果が無いという事があったり。
表現の仕方にも個人差があります。
同じグループで同じ体験をしたとしても、それに対してどう感じたかなど、レポートでの表現がまったく違うというところで、検証が非常に難しい。
グループの学びという事になると、人と人との相互作用が出てくるのでもっと難しいですし実際、「留学プログラムにおけるグループの学び」に特化した研究って殆ど無いんです。
■データおよび分析方法
FIRTSTプログラムの振り返りのレポートを対象に分析をしてみました。
約240くらいのレポート数で、
  • 何故FIRTSTプログラムに参加したのか
  • 何を目標にしていたのか
  • 具体的にどういう経験があったのか
  • 何を学ぶことができたのか
等、いわゆるレポートの形で皆さんが書いたものを対象にしました。
どのように教育的仕掛けや学びの関係を見ていくかについては、
闇雲にレポートを見ていっても分からないので、
テキストマイニングという手法を用いて学びに関するキーワードを見つけ、そのキーワードに基づいて教育的仕掛けと学びの関係を考察するといったアプローチ方法で実施しました。

着目すべきキーワードと言っても、どのグループでも同じように使われている言葉に関しては、些細であまり意味がないということで。
あるグループではよく使われているが、
あるグループではそうでもない(使われていない)言葉
については、そのグループにとって印象的であったり学びに繋がっているのではという仮説を立てて、着目すべきキーワードというのを考えてみました。

■分析結果

では、着目すべきキーワードは何を選んだかと言いますと、グループの学びに着目して「任せる」という言葉を抽出しました。

「任せる」という言葉がレポートの中で具体的にどのように使用されているかというと、
現地の人(韓国人)とのコミュニケーションを、グループの中で韓国語ができるメンバーに「任せる」という使われ方が多く出てきました。

では、その「任せた」経験がどのような学びに繋がったかと言いますと、グループで協力して取り組むことの大切さが分かったという感じで、プログラム終了後の内省・振り返りを通じて、自分なりの学びを得たという事です。

学び方も色々で、旅の中でも振り返りがあるので、旅の最中に気づくといった事もありました。

(レポートの例② 青字下線部分)

【気づき】

  • 初日は、班員に韓国語が大半話せる友達がいたので、任せっきりにしてしまい、
  • 今日を振り返ってみて、このままだと何も学習しないまま5日間が終わってしまう

                 ↓  

【学び】           

  • 韓国語が話せる人にどのように話せばいいか聞いて、教えてもらおう

<参考>

参考までに、「任せる」というキーワードは結構重要で、教育分野では'フリーライダー'という課題があるのですが、今回レポートの中からキーワードとして「任せる」という課題を象徴するような言葉が浮かび上がってきたのは結構興味深いことだなと思います。

教育的仕掛けと学びの関係性なのですが、

先程のレポートに戻って、「現地の人との交流を任せきりにしてしまった」という文章の前部分を更によく読んでみると、

これら(青字下線部分)は、具体的な経験の振り返りを通じた学びであり、教育的仕掛けによって生まれた学びなのではないかなと思います。

いまは一つのサンプル(レポート)を見てきたのですが、
「任せる」という意図を含むレポートは他にももっとたくさんありました。
他のレポートに関しても、段階ごと(事前授業・海外留学・事後授業)に追って見てみました。
そうすると、理論ではなくて旅の実践の中で教育的仕掛けがどのように学びのプロセスに繋がっているのかが少し見えてきました。
 
例えば、
(d)韓国語の習熟度調整
(f)移動型実習
(g)現地の人へのアンケート調査
⇒アカデミックな「経験する」といった学びのプロセスに繋がっていますし

更に「経験」したあとの「振り返り」という学びのプロセスでは、
(a)ルーブリックによる目標設定
(b)毎晩の振り返りセッション
が関係しています。

更に「自分で試す」といったところでは、
(a)ルーブリックによる目標設定
(g)現地の人へのアンケート調査
先程のレポートでいう、「初日には、韓国語を話せる班員に任せてしまって出来なかった」
という気づきによって、翌日以降への「自分で試す」という機会に繋がっています。
(a)ルーブリックによる目標設定
(c)事後の振り返り議論・レポート

という教育的仕掛けによって「メタ的に振り返る」という学びのプロセスに繋がっています。

今回は、短期海外留学プログラムを例に分析を進めました。今後も、こういった形で、旅と学びの関係性を丁寧に紐解いていくことで、どんどん新しい気づきを見出していければと思います。 

ありがとうございました。

次回の公開もお楽しみに!